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☆『家族八景』――凄絶な思考
評価:
筒井 康隆
新潮社
¥ 460
(1975-02)
 幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも悲しい本である。
 左カラムの「いま読んでいる本」で書いていたんですが、正直ちょっと重かったです。文体がではなくて、内容ですね。いやー、けんかした前後に読む本じゃないですね、ほんとにまったく。それぐらい凄味のある本、ということでもあるのですが。
 あ、あとまたジャンルのことになってしまうのですが、これは個人的にはファンタジーぽく感じたんですけど、SF初心者にお勧めの本を検索してたときに挙げられてたので、こちらに入れておきました。ああ、本当は目次的なものを作るべきなんだろうけど、大変そうで手が回らないというか出ないというか……。
 まあそれはさておき、重いと思い(いえいえ、ダジャレじゃないわけじゃないですけど)いまの気分はちがう本だなと思い、『イルカの島』に手を出したわけですけど、結局こちらを先に読み終わってしまったわけで、やっぱり面白かったのです。というか凄まじくてどんどん読んじゃいました。てわけでおすすめ星1つに、評価星5つというかなりの評価になりました。えぐいのだめなひととか、最近しょっちゅうけんかしている人(これはある意味荒療治になるかもしれないけど)とかには、ちょっと勧められないかもしれませんが、とにかくかなり面白かったですね。
 どれくらいかっていうと、そういう人も多いと思いますが、小説でも映画でも漫画でもなんでもいいんですけど、すごいものを受容したときには比喩でなく背筋がぞくぞくとするんですが、久しぶりに背筋がぞくぞくするものを読みましたね、ってぐらいです。どのシーンが、とはここでは書けませんが、すごかったです。

 ってわけで、続きはネタバレしつつ。
 
 
 
 
 
 内容に関わるし、先行情報として大きいかもと思ったので上では書きませんでしたが、最初の二篇はまあ、そこそこかなぐらいに思いながら読んでまして、だもんで『イルカの島』に浮気したんですけど、「青春讃歌」から俄然面白くなってきました。陽子に共感する展開に「おっ、ちょっといままでとちがうな」と思い、その陽子が若い彼に傷つき崩れ、「(スピード違反による事故は、中年のドライバーとは無縁のものなんだから)(死んでも)(いいわ)」(P.71)っていうここで、その後の七瀬の絶叫で、ラストの「(なぜなら)/(なぜなら)」(P.73)で思い切りやられました。ああ、これはすごい、と。
 で「水蜜桃」では、勝美の七瀬を犯そうとする「自分をはげますため、すべて自分の犯行に好都合な計算をする犯罪者のそれにおそろしく似た考え方」の、脂ぎった感じ。そんでもってそんな勝美が壊れるまで追い詰められる七瀬との会話。あああ、これはすげえよ! ここでぞくっときましたよ!
 つづく「紅蓮菩薩」では、七瀬がテレパスだということがばれそうになるというスリリングな展開も見せつつ、だけどもやっぱりすごいのは菊子。「彼女は指先につまんだコンドームを眼の上の高さにさし上げ、電燈の明りにすかして夫の体液を凝視していた。量を目測しているようだった。彫りが深く、蒼白い顔をした菊子の大きな眼は瞳孔の開きがわかるほどさらに大きく見ひらかれ、その目の周囲は黝かった」(P.115)こ、これはこええええ! ここでもまたぞくり。でやっぱ、ラストの「紅蓮菩薩」のシーンがまた……。
 という感じで、以上の3篇がとにかくすごかったと思います。他も面白かったんですが(「亡母渇仰」なんかもかなり)、とにかくこの3篇はすごい。

 解説でも書かれてますが、モノローグが上手いなーと思います。ブツギレになってる感じとか、ばらけながらだんだんと方向を定めていくのとか、飛び出すような感覚。上の菊子の描写の引用したシーン自体にはモノローグ入ってないんですけど、その前にいろいろとモノローグがあってのあのシーンの怖さってのがあると思いました。

 本当はサブタイトルに「他人の欲望」とかも考えてて、アレを引用しよう、とかもちょっと考えてたんですけど、よくよく考えたら何かまとまったことを言えそうにないな、と気づきやめてしまいました。ただまあ、「芝生は緑」なんかモロにそうですけど、他人が欲望するものに欲望するっていうメカニズムはあるんだろうし、それと贈与論みたいなのとか、精神分析だとか心理学とかそういうので、文学における三角関係みたいなことを書いてある本があったら読みたいなー。漱石の話なんかもう大体(そんなにたくさん読んでないけど)三角関係の話なんだから、そういう本はきっとあるんだろうなあ。
| SF近辺の作品 | 16:01 | comments(4) | trackbacks(0) |
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コメント
 この作品はすごいですね。眼をそらしたくなるんだけど、逆に読みふけってしまう、みたいな。
 初期作品にも『底流』(だったと思います)というめちゃくちゃドロドロしたテレパスものがあるのですが、お読みになってなかったら、オススメです。
 あと、もちろん、『七瀬ふたたび』も後の実験作につながる『エディプスの恋人』もオススメです。
| A・T | 2007/04/05 10:21 PM |
 A・Tさんこんにちは。コメントありがとうございます!

 いやまったく、そんな感じですね。ちょうど昨日寝る前にふと思ったんですが、七瀬が掛け金をおろせない感覚を読者に感じさせている、というような感じなのかもとか。
 いろいろ勧めていただいてうれしいです。「底流」もチェックしつつ、とにかく七瀬のその後が気になるので続編を探したいと思います。ふ、古本屋で!

 筒井康隆は去年の暮れに『時をかける少女』……じゃなかったその前に『文学部唯野教授』を読んで以来、どの作品も面白いので、ひどくいまさらながらに(ほんとは「いまさら」とか言うととてもむなしくなるんですが)筒井康隆にはまりそうです。小松左京とかも絶対面白いんだろうなあ、とかも思うんですが、例によっていつか、そのうち読もうと思ってます。

 なんかつい自分のことを語ってしまってアレなんですが、とにかくお勧めしていただいてありがとうございます。よーし、読むどー! ってわけで、ではまたー!
| 智洋 | 2007/04/06 2:55 PM |
「家族八景」は七瀬三部作の中でも一番好きな作品でした。
特に「紅蓮菩薩」は当時中学生だった自分にとって、ヒロインの
執った行動とその結末が大変ショッキングでした。七瀬に
とっては自らを守るためだったとは言え。数年前にドラマ化も
されましたが、原作通りのエンディングになぜ出来なかったのか
残念でありました。
| Kotton | 2016/11/01 4:21 PM |
 Kottonさん、こんにちは。うち棄てられたようなブログに、いつの間にかコメントがあって驚きました。いまさら気づきましてすいません。それと、コメントありがとうございます。

 もう10年前に読んだ本で、ほとんど覚えておらず、自分の文章を新鮮な気持ちで読みました。
 「紅蓮菩薩」を読み返してみようと思ったのですが、本棚に見つからず、5回の引越しのどこかで手放してしまったのかなあ。

 なんだか何を書いてるのかよくわかりませんが、ともかくお元気で!
| 智洋 | 2017/01/27 12:54 AM |
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