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☆『トムは真夜中の庭で』
評価:
フィリパ・ピアス,高杉 一郎,Philippa Pearce
岩波書店
¥ 756
(2000-06)
 友だちもなく退屈しきっていたトムは、真夜中に古時計が13も時を打つのを聞き、昼間はなかったはずの庭園に誘いだされて、ヴィクトリア朝時代の不思議な少女と友だちになります。歴史と幻想が織りなす傑作ファンタジー。
 最近あんまり本を読む気がしなくてどーしよーうーん考えるのめんどくせーとか思ってたので、そんなときに手を伸ばす村上春樹(気が向いたときに羊三(四)部作を読み直してるんだ)をちょろちょろ読み始めたんですが、トムを庭園にほっぽり出したままだということを思い出して、続きを読んでみました。
 目安程度の点数としては90点ぐらいでかなり面白かったです。時間ものってのはやっぱりいいなあ。またこれが上手いこと構成された話できれいにできてるんだ。時間がテーマなのでちょっぴり謎解きもあるんだけど、その辺も上手くできてる。時間を抜きにしても塀に守られた庭園の描写、トムとハティの楽しげな雰囲気がよかったなー。とにかく読書好き、ファンタジーが好き、タイムトラベル物が好き、児童文学が好き、といったあたりの人にはかなりオススメ、ぜひ読んでもらいたい。

 ほんでは、ここから先はネタがバレるかもってことで。
 まずは描写のことでも。トムが初めて庭園に行くシーンの「夜とひるの間には、自然が眠っている時間がある」(P.63)から始まるくだりが好き。静かで美しい庭園との出会いを上手く滑り出してるなーと。
 あと弓矢のエピソードもいいなと思う。「矢がはなれると、ハティは目をほそめて、細い線となった矢が常夏の空の目もくらむような青のなかに吸いこまれていくのを眺めていた」(P.134)。ここはこの本のことを考えるたびに思い出すシーンだと思う。すごくきれい。

 あと、やっぱ構成が上手いなーと。結局思い出/夢の中で遊んでた、ということになろうかと思うけど、時計やスケートについて頼むところや時代考証をするところなんかは、サウンドノベルの『街』のようなパズル的謎解きがあってわくわくする。

 タイムトラベルについて、以前読んだ本からちょっと引いてみる。
「タイム・トラベルは可能だ」というあらゆる主張には、過去がなんらかの仕方で保存されていることが前提されている。まったく保存されていない世界に「戻る」ことはできないからです。(『時間を哲学する』/中島 義道 P.92-93)
 タイム・トラベルがわれわれの夢を膨らませるのは、むしろわれわれが日々想起という現象の不思議さにひっかかっているからではないか。現在、過去の出来事を想起できることは大層不思議なことだが、なぜかできるのだ。ならば、さらに一歩を進めて、その出来事が起こった現場に実際戻ることもできるのでは、という熱い期待を抱いてしまうのではないでしょうか。(同上 P.95)
 トムの場合は思い出の中に、遊び相手を求める気持ちが扉を開けた。上手く言えないんだけども、この作品は一般的なタイム・トラベルとちょっとちがうような気がする。つまりこう、引用にあるような保存された世界というよりは、共同的な想起というか、砕けて言えば思い出話に参加したような感じというか。引用の本は時間とは言語的な想起によってしか認識/制作されえない、という論調だった(と思う)けども、時間が想起でしかないならトムようなやり方で、保存された世界へのトラベルではなく、新しい過去とでも言うようなところへ旅立つことができるんじゃないか、それが本作におけるタイム・トラベルの形なのではないか、ともやもやしながら思う次第。ああ、もっと僕に利口な頭があれば……。

 上の話を諦めて。ハティからしたら「架空の友達もの」というジャンルとしても本作は読めるかもしれない。想像で友達を作り出し、それは大人になるにつれ薄くなっていっていつか消えてしまう、という。サリンジャーが『ナイン・ストーリーズ』の「コネティカットのひょこひょこおじさん」(サリンジャーの中でもこの作品はかなり好きだ)で見せたような喪失感をこの作品でもまた少しだけど感じた。
 けど、この作品がいいところは、やっぱラスト。喪失感じゃないよなあ。正直言ってこの展開は多くの読者が読めてしまうものだし、お約束とすら言ってもいいんだけど、僕はオーソドックスな話は大好きだし、ハッピーエンドはすてきなものだと思っている。そして、この話のラスト、中でも最後の六行はすばらしかった。話の類型なぞすでに尽きているかもしれない、いや尽きているだろう。だけど、それをどう見せるのかは自由なんだと本当に思う、そんなラストシーンだった。

JUGEMテーマ:読書
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