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☆『すべてがFになる』
すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER
すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER
森 博嗣

 ―いねむり どくしょ―さんのこちらの記事で星ふたつ(ひとつでオススメ、ふたつで特にオススメって感じらしいです。こういうの、ぼくも真似しようかなあ)だったので読んでみました。勢いでトラックバックもさせていただきました。へへ、すいませんねえ……(トラックバックを送るのっていまでもなんだか後ろめたいのです)。

 まずは背表紙からあらすじを引きます。
孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季(まがたしき)。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平(さいかわそうへい)と女子学生・西之園萌絵(にしのそのもえ)が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。

 この研究所ってのが、研究者にとってはうっとうしい世間から隔絶されたユートピアっぽい場所で(でも、その中にも俗っぽいものごととの葛藤があったりもします。主人公の犀川の属する大学って場所もそんな風にとれるかな)、ハイテク満載の舞台です。
 あとは―いねむり どくしょ―さんの記事にもあるように、「天才・異才・奇才ばかりが登場する」のと、「パソコンの知識が皆無の方には、ちょっと理解しづらい部分があるかもしれ」ないのも特徴ですね。よく理系という言葉で語られたりもしますが(そして、そこが本質ではないともよく語られていますが)、ぼくでも理解できるので理系だからどうこうというより、コンピュータがどうこうという感じだと思います(そもそもテクノロジーって理系だけの範疇なのかな)。
 ついでに登場人物の描き方が弱いとか薄いとかライトノベルっぽいとかの批判もありますが、ミステリーは(ミステリーをほとんど知らないぼくが言うのもなんだけど)かなりガジェット(仕掛け)的というか、はっきりしたジャンルだと思うので、そういうことでいえば(上のような)キャラクター的でどこが悪いのか、とも言えるかな。ぼくとしてはキャラの名前とヒロインのお嬢様ぶりが、まあちょっとなあと思えなくはないかなってぐらいでした(個人的にライトノベル的、あるいは漫画的ってのはイラストの存在が大きいとも思うし)。
 面白かったかどうかでいうと、かなり面白かったと思います。ちょっと冗長というか、もう少し短くても、とも思うには思いながら、次の日予定があるにもかかわらず、夜中から朝までかけて一気に読んでしまいましたから。しかも全10巻のシリーズなんですけど、今日勢いで5巻まで買ってきちゃったり、2巻を早速読み始めちゃったり。ふ、ファンタジーはどこへ行ったー!?

 以下はちょっとだけネタバレしてるようなしないような感じでいろいろ思ったこと、興味のあることを書いてみます。『これが現象学だ』(特にP.146から149辺り)からのつづきもこのあとです。




 ミステリーといえば金田一少年ぐらいしか知らないのですが、まず気になるのはハイテク時代のミステリーってどんなんだろってところですね。ネットワーク上の会話とか監視カメラのシステムとかその辺りが気になるところでした。その辺はなるほどと思って面白かったですね。あと(ミステリー的な意味での)「孤島」の設定ってのが興味がありましたし、これから読んでいくうえでもあります。なんで「孤島」が存在するのか、とか通信手段どうなってるの、とかいうことですね。この作品では携帯電話出てこないんですけど、携帯とかミステリーではどうするんだろ。気になる。

 ここからが一応『これが現象学だ』(特にP.146から149辺り)からのつづきです。
 少し遠回りですが、またりんごの話から始めてみます。
 あなたの目の前にひとつりんごがあるとします。で、そのりんごに「アップル君」と名前を付けるとして(ひでえ)、アップル君と他のりんごを分けるものはなにか(アップル君という個体をいかに認識するか)、という問題があります。先にいうと目の前にアップル君があるということは、「今・ここ」という条件で成立するわけです。
 まず「今」のほうでいうとこうなります。あなたの部屋のテーブル(どこでもいいけど)の上にりんごがあるとして、3年前にもテーブルの上に似たようなりんごがありました。さて、ふたつは同じ個体か? というとちがうと考えられます。現象学の言葉でいえば、ふたつはほぼ同じような「ノエマ」的要素(赤いとかつるつるしているとかかじると甘酸っぱいとか、そういった要素)をもっているにもかかわらず、時間位置が分離しているというわけです。
 同じように「ここ」のほうでも、テーブルの上のりんごと椅子の上のりんごは、ちがう個体と考えられます。いくら似ててもふたつのものが同時にあるという理由で(空間位置が分離しているから)、たとえばアップル君とりんごちゃん(ひでえ)になってしまうわけです。
 で、こういうこととミステリーの「アリバイ」ってのは同じなんだそうです。アリバイって言葉はラテン語のalius ibi(他の場所に)に由来するらしいですが、つまり事件の起きたときにちがうところにいた(時間位置が一致しながら空間位置が分離している)から、ぼくは犯人じゃないよ、と証明できるわけです。
 そういうことで考えるとこの本の事件は、まず、テクノロジーによってそれが崩されている(ネットワークの会話とか、カメラの映像とか、人間の入れ替わりとか。窓がないことも関係あるかと思ったんだけどなあ)といえます。
 でもさらにちょっと思うのは、結局時間位置と空間位置と「ノエマ」的要素で到達できるのは「ノエマ」(「存在自体」、「存在そのもの」であるとはいえないけど、そんなように思われる「存在っぽい」なにかのこと)でしかないわけで、もっといけば(ハイ)テクノロジーとか関係なしに、ある個体を絶対に、確実に認識することは不可能なわけです。読み違いかもしれないけど、最後の最後の仕掛けとかもそういうのだし。
 で、そういうある種の不安というか、ぼくらが一応立っている認識の足場を崩してくるところが面白かったですね。この辺、岡嶋二人の『クラインの壷』(高畑京一郎の『クリス・クロス』でもいいけど)みたいな感じですごく好きです。

 なんてところで終わりです。携帯の謎(どなたか携帯が出てきて、かつ上手いこと書いてる小説があったら教えてほしいです)は残りましたが、なんとなく考えたことを書いてみました。「てへへ」って気分です。てへへ。
| ミステリー近辺の作品 | 21:22 | comments(6) | trackbacks(3) |
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コメント
こんばんは、遅ればせながらTBありがとうございます。
そ、そんなにまとめて買ってしまわれたんですね(笑)飽きずに読めるといいんですけど・・・。


携帯については私もそう思います。続編では携帯を使う場面も出てきますが、でもトリックとつながりはなかったような。ハイテク機器をうまく生かしたミステリーって、どんな感じになるのか私も興味があります。

現象学の話、面白いですね。「「今・ここ」という認識の足場をうまく崩している」っていう指摘にはなるほどと思いました。
『クリス・クロス』読んでるんですか!私もだいぶ昔に読みました。なんかちょっと嬉しい(笑)
たしかに『クリス・クロス』と似ている部分がありますよね。


ではでは、また読みに来ますね〜。
| ユズハ | 2006/02/01 7:21 PM |
 こんにちは。いえいえいえ、こちらこそ本当にトラックバックさせてもらっちゃって……。早く「オウ、トラックバックしてやったぜ」ぐらいのことを言えるようになりたいものです。やっぱそれいやかも。
 古本屋で(ああ、新品で買わないですいません、業界のみなさま)2〜5までを一気に見つけてしまい、20%オフセールとかもやってたので、いまだ! と買っちゃいました。

 携帯はトリックとつながらないんですか。うーん、ちょっと残念。でもハイテク全般は気になります。やっぱりこう、「レイバー生産→レイバーによる犯罪の増加」(『パトレイバー』)みたいに、新しいものができて、その穴をつかれて、って感じになるんでしょうけど、あまりコンピューターウィルスが活躍しすぎないといいなあと思ってます。

 (ちょっぴり)謎が残る話というのは結構好きかもです。江戸川乱歩の「陰獣」もそういう感じで好きだったかなあ(ちょいネタバレすいません)。
 『クリス・クロス』は、実は初めての「ジャケ買い」(?)したものなのです。ああいうすばしっこそうなキャラが好きなので(笑) あとになって高畑京一郎が人気だとか知って、その辺りから秋山瑞人とか岩本隆雄とかも読み始めたのです。あれ、なんか自分史語っちゃった。

 現象学とかは、ほんというとつなげてみせるほどの理解はないのですが、大学の先生は「ぼくら凡人にとっては、理論を接続することが何かを考えること、生み出しうることだ」と言っているので、とりあえずはなんちゃってでも、うそでも、半知半解でも、言うだけ言っとけ! ぐらいでやってますよ(笑) 危うい論旨でがんばろう!

 こちらもまた、というかしょっちゅう見に行ってます! ではー。
| 智洋 | 2006/02/02 1:51 PM |
こんばんは。

おぉ、ジャケ買い(笑)ライトノベルとかノベルスだと特に、そういうことってありますよね。
江戸川乱歩は読んでますから、ネタばれ大丈夫ですよ(笑)
秋山瑞人は私も好きで結構読みました〜。何だか似ている部分があるみたいですね^^

「理論を接続すること」・・・なるほど、それ、すごくいえてますね。その精神を私も受け継ぎたいものです。

ではではまた〜
| ユズハ | 2006/02/03 3:43 AM |
 秋山瑞人はいまでも結構好きです。ユズハさんの記事で『ミナミノミナミ』って新刊が出てるのを知ったので、そのうち買いたいですねー。
 似た部分があるというのは、ぼくがブログを始めたばかりのとき、「おお、ここは趣味が合ううえにすごいブログだ」と思ったのでそりゃもう当然ですよ!(笑)

 その先生はさすが大学教授、かっこよく論を展開するんですけど……こっちもがんばらなければ。でも、なんか単純に楽しい(楽しくなってきた)んですよね、そういうのって。それこそ<S&M>シリーズのセリフじゃないですけど、楽しいことこそ大事ですよね。
| 智洋 | 2006/02/04 11:09 PM |
こんばんは。

『ミナミノミナミノ』は、1巻が出てから1年以上経つけど続編がいっこうに出ない・・・ので、面白かったんですけどオススメできるかどうか微妙です^^; 単に作者さんの筆が遅いだけなら良いのですけど。

趣味が合うって(笑)ありがとうございます。こちらこそですよ。

>楽しいことこそ大事ですよね。
そうなんです。楽しいことこそ大事なんですよね。
それで思い出したのですが、四季博士が出てくる小説、このシリーズの他に『四季』というシリーズがあります。そのままズバリなタイトルですが、春夏秋冬の4冊で、たぶん講談社ノベルスから出ていたと思います。犀川&萌絵のほかに、森博嗣の別のシリーズのキャラクターも出演していたような。
オススメかどうかは別として(あんまり前に読んだのでよく覚えてないです)、お知らせでした〜。
| ユズハ | 2006/02/06 2:34 AM |
 こんにちは。返事遅くなっちゃってすいません。

 秋山瑞人はたしか、なかなか新刊が出ない人だったと思います。イリヤは電撃HPで連載してたから、ペースがちょっと速かったのかなあ。EGコンバットなんてずっと出てないような(笑)

 四季シリーズですか! S&Mシリーズ読み終わったら読んでみたいですねー。いま三巻を読んでるので、読むのはかなーり先ですがチェックしてみますね。情報ありがとうございます!
| 智洋 | 2006/02/08 12:42 PM |
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